「死後結婚 サーフキョロン」岩井志麻子(徳間書店)



 相手が男でも女でも、惚れっぽく惹かれやすい。そんな京雨子が、自意識ばかりのつまらない男と別れ、見合いで出会った慶彦。そして、かれに紹介された女性、沙羅。異国の血を引く彼女は美しく謎めいていた。やがて、彼女の内縁の夫が命を失ったとき、沙羅は京雨子に、自分の故郷での「死後結婚」に立ち会って欲しいと求める。沙羅と出会ってから、この世のものでない人々を幻視し、謎の物語に悩まされるようになっていた京雨子は、迷いつつも、その頼みを受諾するが―――。
 「死後結婚」?サーフキョロン、という聞き慣れない言葉がタイトルになっています。「死後結婚」というのは、日本でも東北地方に例があるそうですが、この本では、韓国の地方の風習が題材になっています。林静一の表紙絵が非常に美しい一冊ですが、内容も、この絵の雰囲気にぴったりしていて、美しく、そして怖い物語です。
 
 この著者のホラーは、一見の印象と違って、見た目のグロよりも、静かにそこにある異質な存在の怖さに重点が置かれているという気がします。それは分かりやすく心霊であったり自殺した亡霊の姿であることもあれば、まったく同じ生きている人間であるにも関わらず、これは本当に同じ人間かと疑うような空虚さを湛えた存在だったりします。そしてこの本も、「死後結婚」という題材からかもしれませんが、派手でなく、むしろ静かな死霊と、それをまとわりつかせて生きている人間の絡み合うさまを描いているような気がします。それは、派手な血しぶきでも、気味悪い怨霊でもなく、ただもう空虚な届かない世界に行きながらも、まだ自分がいた場所や関わった人々に声を届かせることを求める、寂しくも哀しい存在です。そしてもちろん、この世の人間には、かれらを助けることはできない。向こう側に行った人々とこちら側の人々が、真の意味でつながることはできない。その視点が、非常に、著者らしい。
 著者のホラーとしては、ちょっと小粒で、派手ではないかもしれませんが、憑依として異界を見る主人公の描写と、重なる幻想の場面、韓国の文化などが印象に残る作品です。ただ、繰り返しの多い文章に飽きがくるひともいるかと思うのですが、これはもう、慣れていただくしか。ていうか、たぶん、雑誌連載時、毎回、冒頭に前回のあらすじよろしく前回の場面を違う表現で書いておく親切が、仇になっているとしか…。本になるときに書き直せばいいのかもですが、本編にもしっかり溶け込んでいる部分だけに、そこだけ直すのは難しいのだろうな。あと、たぶん、志麻子ちゃんは気にしてない。

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