東京都の青少年健全育成条例について(4)

これまでにも取り上げさせていただきました(一回目)(二回目)、(三回目)東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案の問題(いわゆる非実在青少年問題)に関しまして、都議会での6月からの継続審議を前に、新たな動きがいくつかありますので、ご紹介したいと思います。
 まずは、この問題に関して精力的に活動されている、明治大学准教授の藤本由香里先生と弁護士の山口貴士先生が代表となり、今回の改正に反対する署名運動が始まりました。詳細はこちら(URL)、署名用紙そのもののDLはこちら(URL)です。
 また、関連書籍が5月末に発売されます。「非実在青少年◆読本」COMIC リュウ編集部編 (徳間書店) と「非実在青少年〈規制反対〉読本」サイゾー&表現の自由を考える会 (サイゾー) です。どちらの書籍も、錚々たる執筆陣が今回の問題について意見を述べられている、読み応えのある本になっていることが予想できます。
 わたしはずっと考えていました。前回、東京副都知事の猪瀬直樹氏の言動を目にして、本来は公正中立な立場を保つ、或いは多種多様な角度からの客観的な情報を冷静に分析した上で判断を下すべき職業であるジャーナリストのかれが、ここまで盲目の状態になっていることを知りました。そこから、今回の問題は決して理論で考えられていることでなく、むしろもっと生理的な、判断力以前の「常識」として人間が捉えている部分での扱いになることを予想しました。正直、それでは勝ち目はないと思いました。副都知事の蒙昧を指摘したところで、かれや、かれの背後にいるたくさんの「常識ある人々」の信念は揺らぐことはないのです。なら、どうすればいいのか。議員に手紙を書くことはできますし、何通もすでに書きました。けれど、都議会の選挙権を持たない人間の声は、やはりその価値を何割も引かれたものになるでしょう。なにより、改正案推進派の議員は、そもそもそんな声を聞きたくはないのです。わたしが、今回の条例改正案を肯定する文章を読む時に感じるあの苛立たしさを、かれらもまた感じるわけなのだから。ですが、わたしは、今回の署名運動と書籍の発行は、東京都民でない人間にとっても、今回の改正案に「否」という意思表示をする、できる限りの手段のひとつであると思います。
 たとえば、議員への手紙では、そうそう他人に協力を頼むことはできませんが、署名であればなんとか…というひともいるでしょう。自分なりの意見を伝えれば、賛同してもらえる友人家族は自分以外にも何人か見つかる可能性があります。それが束となり、数となること。それがたった一人の署名であったとしても、それは数です。なにより重要なのは、署名という手段は、年配の議員にはなじみが薄く(むしろ反発すら生みそうな)メールの数やツイッタ?での広がりという手段以外で、かれらに、この問題の大きさを伝えるものになると思うのです。かれらの理解できるやりかたで、かれらに届く言葉で、自分の意見を伝えることが大事なのだとわたしは思います。
 もちろん、署名というやりかたが苦手な人もいるでしょう。自分の名前を記すというかたちで自分の意見に責任を持つという体験を、自分の中でどうとらえるかはひとそれぞれだと思いますし、みなが一律に署名するのが当たり前、とか署名しないひとはどうこう、なんていうつもりはまったくありません。そういう偏狭さは、わたしがもっとも嫌悪するものです、念のため。
 あと、書籍について。詳細情報を見ていただくために、amazonにリンクはしましたが、できればこれを購入したいひとは、ネットでなく、リアルの本屋さんで購入してほしいと思います。店頭に見当たらなければ、店員さんに尋ねて、注文してほしいです。個人が購入するのは、たかだか一冊二冊のことかもしれないけれど、それが相次げば、大きな注文につながる可能性はあると思います。あまりにも世間に正しく認識されていないこの問題が、まずは存在しているのだということを、そういう自然な形で、世の中に知らせること。草の根の活動ですが、それもまた意味あることだとわたしは思います。そんなことを考えていると、ふと、この曲が浮かびました。
 「何故来たか不思議でしょ?/勝てるわけもないのに/僕等の哀しさはあなたがたにわからない/僕達弱いんだな/弱いから来たのだな/犬死と笑うんだね/誇り高き人間の証明
(筋肉少女帯/タチムカウ?狂い咲く人間の証明)
 わたしもがくがく震えてタチムカってるわけです。しかしわたしが、この改正案に反対するのは、この改正案が、傷ついた人間が、物語によって癒される可能性を奪うものになりえると思うからです。それはかつてのわたしです。いまのわたしが救われることを願う人々です。ひとがどのような物語によって救いを得るかは他人にはわかりません。わたしは、ひとりでも多くの人が、自分自身の物語と出会えることを、ただ祈ります。

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