「キスト」バーバラ・ガウディ(新潮社)



 写真集のような装丁と雰囲気に惹かれて手に取った一冊。いわゆるネクロフィリア(死体愛好症)の女性と、彼女を愛する男の物語です。
 わたしはネクロフィリアは正直、感覚として受け入れ難いというか、よく分からない。けれど、この小説は、そういう性癖を持って生まれた女性の生活と人生を、グロテスクではなくシンプルに、むしろ淡々と語ります。それを分かる、と云ったら嘘になる。でも、「生まれつく」というものには、誰にでも思い当たることはあるはずで、その「生まれつく」ものの種類に違いはあれど、それが己に与える影響とどう折り合って生きていくかということを考えたことがあるひとならば、この女性の諦めと受け入れを「分かる」部分は、あるんじゃないかな。わたしには、彼女を愛するあまりに、自分もまた死体と愛を交わすことにしたという男に対して「ネクロフィリアとは、無理強いするものではなく、そうせざるをえないように生まれついた哀しいものなのよ」と訴える彼女の台詞だけで、読む価値があったような気がします。
 ただ、これはこの作者の短編集から一篇だけを抜き取ったものらしく、その他の作品もまとめて読みたかったと悔しく思います。他の短編も、様々なものに「生まれついた」人々の物語であるらしいので。

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