虎だ、虎になるのだ。

 …なり損ねちゃったんだけどね。
 一時のブームは落ち着いたようですが、今年最初の話題といえば、かの伊達直人ことタイガーマスク。ツイッターでも少し書きましたが、私はいまの仕事に就く前に、知的障がい児(軽度)の施設で一年ほど働いていたことがあり、この話題には関心を持っておりました。
 ていうかね、ぶっちゃけ、都条例の騒ぎの時に、どこかの施設にマンガを贈ることが出来ないかと思っていたのです。非実在でなく実在の子供に、マンガを愛する人間として何が出来るかとか色々考えていた時に思い出したのが、その施設に転がってた、回し読みされてぼろぼろの「なかよし」「ジャンプ」でした。そして、昨今のタイガーマスクの活躍に、むらむらとそのころの記憶が刺激されました。いろいろと厳しい状況にある子どもに、マンガを届けたいな、という気持ちになったわけです。
 でも、わたしが昔いた施設は、いまは経営母体が変わっていてちょっと縁遠い。なので、同じ地元の児童養護施設に、マンガか本を贈れないかと思いました。こう、流行に乗った感じでさりげなく。さすがに伊達直人と名乗る勇気はなかったので、同じ孤児院育ちとか、恵まれない幼少期とかの少女漫画主人公の名前はないかと友人と考えたりした。ええ、お調子者で申し訳ありません。わたしの一押しは「白木葉子」だったのですが(葉子お嬢様は少年鑑別所に慰問に行ってたよ!)さすがに分かりにくかな…と迷ったり。(たぶん迷うポイントそこじゃない)
 しかしなにより、今回のこの流れで、私が目をつけていた施設にも、すでにランドセルとかは贈られていました。以前、そういう施設にいたもので、こういう贈り物は、重なると置き場所に困ってしまうことがあるのも知っている。なので、まずは受けて頂けるかどうかを電話で問い合わせしようと思いました。そして、この段階にいたって、さすがのお調子者も、はたと立ち止ることとなりました。 なんせ、こんなことは初めての経験です。そういう意味で、とても勇気が必要でした。さすがに連日のこの騒ぎだし、施設側からしたら、うっとおしかったり単に迷惑かもしれない…と。やっぱり自分自身に「偽善者乙」的な気分も浮かんでくるしね。そうやって考えれば考えるほど、流行に乗っちゃえ的なノリは消え始めて、それでも、子供たちにマンガを届けたいな、というシンプルな気持ちだけが残り、とにかく、問い合わせてみるだけでも…と思いました。
 電話に出てくれた職員のかたに、なんと切り出そうかと迷った挙句「あの、最近のタイガーマスク的なあれなんですが」と云った瞬間に、相手の方が笑ってくれたので、わたしも笑い、一気に緊張がほぐれました。そこで、率直に、御迷惑でなければ、子どもたちに本とかマンガとか贈りたいのですが、とお願いしてみました。すると、もちろん寄贈で頂くこともあるし、それ用の予算があるものの、子どもたちが自分のお小遣いで買って回し読みしているマンガもあるし、本にしても読みたいものは学校の図書館でリクエストして長いこと順番を待ってる状態なので、喜んで…とお答え頂けました。 嬉しかったです。そこで、どういう作品をお贈りすればよいでしょうか、とお伺いしたところ、「もし、そんな寄付を頂けるのでしたら、せっかくですから子どもたちに希望を聞いて、それをお伝えしたいと思うのですが」とのお言葉。ええ、それはもちろんです、必要なものをあげたいしね!と思ったのもつかのま
「では子どもたちの意見をまとめてから、また連絡を差し上げたいので、そちらのお名前を」
 タ、タイガーマスク…。
 一瞬悩みましたよ?匿名にしようと思ってましたし。でも、「こちらからまた確認の電話を」っていうのも失礼な気がした。だって日常のお仕事を増やしてしまってるんだから。向うの事情に沿うのが当然だと思ったので、ちゃんと実名を名乗って、連絡先もお伝えしました。なので、わたしのこの行為は、この段階でタイガーマスク運動とは違う、単なる寄付行為になったわけですが、それはまあいいや(笑)。
 なによりも、自分も施設で働いてたから分かるけど、こういう時に、いらないものはすごくきっぱりいらないと断るものなので、自分の行為が迷惑な行為でなさそうなのに安心しました。すごく緊張したけど、ちゃんと問いあわせして良かったです。予算も聞かれたので、ちゃんと具体的に考えてくれたんだと思います。お仕事を増やしてしまったのにも関わらず、職員のかたには、本当に親切に対応していただけました。
 そして、こどもたちがどういうマンガをリクエストしてくるかを楽しみに待っていたところ、翌日には施設のかたから連絡を頂きました。早速、子どもたちと職員の皆さんで考えてくれたそうです。 ちなみに施設にいるのは、60人越えの子供たち。定員いっぱいなんだなあ…。そしてそんなにたくさんの子供たちがいるのなら、マンガのコミックスなんて、きっとすぐカバーも無くなっちゃってボロボロになるだろうから、消耗品です、きっと。だから、無駄にならないと思いました。
 こどもたちのリクエストの中には巻数が多い作品もありました(「ワンピース」とかね)。それをふまえて、一度に全部を送るのではなく、少しずつ、一カ月に一回、リクエストにあった作品を中心にマンガと児童書のプレゼントを贈ることに決めました。ワンピースは現在約60巻ですから、一回につき5巻ずつ贈れば、全巻そろうのに、ちょうど一年かかります。これを一年続けることが出来たら、なにか自分のなかでも見つかることがありそうな、そんな気持ちがしたのです。巻数が多くて大変なら、ブックオフとかで揃えればいいと思われるかもしれませんが、贈り物なので、全部新刊で購入したいと思いました。ささやかながら、地域の本屋さんにも、作家さんにも役に立つことになるから。なに、ライブで県外遠征に行ったと思えばお釣りがくるし…(笑え…ない…)。
 宅配便で届ける予定にしたのですが(手渡しだと、出迎えとかそういうことで施設のかたに時間を使わせるから)そこで職員の人に云われたのが「ぜひ、贈る時は名前と住所を添えてください」ということ。タイガーマスク現象のおかげで、匿名のかたの善意が届くのだけど、匿名だと、こどもたちのお礼の言葉の行き場所が無いそうです。なおかつ、わたしは同じ地域の人間なので、そういう存在のひとが、施設の子を気にかけてくれているということがなおさら有難い…と言って頂けました。
 あとは本屋さんに行って、本を購入し(すごく悩んであれこれ考えましたが、とても楽しかったです)、そこで綺麗にラッピングしてもらい(どう考えてもわたしがラッピングするよりプレゼントらしくなると思ったから…)、その場で発送の手続きを取りました。その後、無事に届いたとのことで、子供たちからのお礼の手紙も頂きました。すごく嬉しかったけれど、毎回、これだと大変だろうなあと思います。わたしとしては、お礼も忘れて読みふけってくれるくらいでいいんだけど、教育的な配慮もあるでしょうね。施設の先生には、毎月贈らせて頂きたいというこちらの意向をお伝えして、了解を頂いています。ただ、場所を取るものでもありますから、ご迷惑になればその段階で取りやめる気持ちでもいます。なによりもまず、施設のかたのご意向を第一にと思っています。
 …このことを今回ブログに書くのは、正直、ためらいがありました。なんていうか、自分の中で、偉そうにひけらかしているように思われたら嫌だなという思いがとてもあります。今でも迷ってます。自己満足、お調子者と思われるんじゃないかという怖さがあります。確かにお調子者なのですが。
 しかし、もし、わたしと同じように、実在の子どもになにか援助を行いたい、それもマンガや本を贈りたいと思う人がもしいたら、こんな風に出来るんですよ、ということを知ってもらいたいと思いました。わたし自身がすごく身構えてて、大変なことだと思って躊躇していたので。でも、きっと、想像してるよりもずっと簡単なことです。
 たとえば今だと「ひなまつりに合わせてこどもにマンガの本をプレゼントしたいのですが、ご迷惑ではないですか?」という感じで、自分が贈りたいなと思う施設を探して(地域名+児童養護施設でググれば、施設を見つける事は容易です)、問い合わせされたら、ちゃんとお返事は頂けると思います。本を贈ること自体は、本屋さんから直接宅急便で送れば、手間もかかりません。もし、同じようなことをしてみたいけれど、疑問に思う事があって…というかたがいらしたら、ぜひメールをください。わたしが分かることであれば、お答えしたいと思います。わたしも情報交換したいです。
 今回、こういうことを始めて、色々と自分なりに養護施設についても調べてみて、考えることも多くなりました。わたしがやっていることがベストだとも思わないし、もっと違う援助のほうが切実に求められている場所もあるかと思います。けれど、わたしはやっぱりこどもには笑っててほしいし、楽しいと思ってほしいし、どんな時でもそばにいてくれるマンガや本を、贈りたいと思いました。わたしは施設で過ごした経験はありませんが、わたしが子どもで、生きるのがつらかったとき、わたしを慰め、助けてくれた存在が、本やマンガ、アニメだったから。そのとき、わたしにマンガを与えてくれたのが誰であれ、わたしはそのひとに感謝したい。そして、わたしはどうにか大人になりましたから、今度はわたしの番です。結局、それだけのことなのかもしれませんが、でも、実際にやってみると、とても楽しいことです。こういうことをさせてもらえて、とても有難いと思いました。やろうと思いつつ、ためらっているかたがいらしたら、ぜひ、ご一緒に。

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