「非実在青少年<規制反対>読本」(サイゾー)「非実在青少年読本」(徳間書店)

 東京都の青少年健全育成条例改正案、いわゆる「非実在青少年」問題の関連書籍です。わたしは二冊とも予約して地元書店で購入しましたが「予約して頂かないと入荷しない可能性が高いですね」とにっこりと云われてしまいましたよ。そうして入手した二冊の感想を述べていこうと思います。
非実在青少年読本」(徳間書店)
 こちらはコミック雑誌「リュウ」編集部による一冊。詳細はこちら。改正条例案の原文と問題点の指摘、インタビューや座談会、コミックルポとコンパクトななかにもぎっしりと詰まったものになっています。ちばてつや先生の「?と、ぼくは思います!!」が再録されているのが嬉しい。吾妻ひでお×山本直樹×とり・みきという三人による対談記事はもっと長いのが読みたいくらい。しかしなんといっても圧倒なのは、回答者100人越えのアンケート。並んでいる名前もすごいですが、ひとりひとりがこの問題に関してご自分の言葉で意見を述べているのが伝わってきます。ほとんどすべてのかたが「反対」であるのはいうまでもないのですが、そのどれもが、単純な一般論でなく、創作というものへの自身の見解を述べることに繋がっているのが、とても良かったと思います。細かい字でみっちりしていますが、ひとつひとつを大切に読みました。
非実在青少年<規制反対>読本」(サイゾー)
 こちらはサイゾー&表現の自由を考える会によるもの。徳間書店の方が、まず問題の基本的な部分を知る為の本であるなら、これはそれを前提に、さらに自由な意見と条例に関する反対意見が述べられているもの、という印象です。どのコラムも読みごたえがありますが(オタクに論理で戦いを挑んだらこうなるよ、という素敵な見本がいっぱいあります)、わたしとしては特に、BL作家である水戸泉さんが、実際に陳情に向かった経験を書いた「陳情なう!」がとても良かった。「誰かやってくれたらいいのに」じゃなく、「できることは自分でやる」という、その姿勢は大事だと思う。
 この二冊を読んで、様々な立場の人が、それぞれの思いを抱えて、それでも真剣にこの問題について考えていることが伝わってきました。この問題に関して、実際に動くことはしないという選択肢を選ぶ人もいるかもしれない。でも、ただ、考えることはしてほしいと思います。この条例改正案を通そうとしているひとたちが、性被害を受けるこどもたちの福祉について、真剣に考察した結果がこれであるとは、わたしにはとうてい思えない。むしろ、この条例改正案に反対する人々の言葉からこそ、こどもたちの幸福と自由を願う気持ちが伝わってくるのです。それは、おそらく、クリエイターと呼ばれる人々の多くが、自分の中に、マンガやアニメをはじめとする優れた創作によって救われたこどもの存在を感じるからではないかと思います。わたしもまた、それが奪われることを見過ごすことが、どうしても、出来ない。想像の世界以外、他にはなにも喜べることは無い、という状態があり得ることをわたしは知っているから。そして、そこで慰められる時期があったからこそ、現実世界に足を踏み出す勇気が持てる、そんな事実もまた、知っているから。
 
 偶然でしたが、ちょうどこれらの本と併読して読んでいたのが、天文学者であるカール・セーガンの著書「悪霊にさいなまれる世界〉―「知の闇を照らす灯」としての科学(上・下)」 でした。これは、学者であるセーガンが、誠実に、いわゆる「ニセ科学」についての警鐘を鳴らしている本です。これは、本当に、わたしの印象でしかないのだけど、セーガンが、科学者として冷静に、どんなに受け入れてもらえずとも、まっとうな科学の成果をもとに、人々を惑わせるニセ科学を糾弾する姿勢が、現在のこの問題に、とても重なってみえました。わたしは、思い込みや偏見、あるいは自らの希望からのあいまいな概念によってではなく、検証された調査による事実をもって行動することにより、こどもは守られなくてはならないと思います。
 「東京都青少年の健全な育成に関する条例改正案に反対する請願署名」、まだ続いています。詳細はこちら

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