「タイムスリップ・コンビナート」 笙野頼子 (文春文庫)



 興味あって惹かれて手に取るものの、なかなか最後まで読みとおせない作家さんです。「二百回忌」も「レストレス・ドリーム」も読んではいるんだが、いま、感想はといわれると心もとない。けれども、たぶん、この「タイムスリップ?」を読んだのと同じ読後感だったような気がする。つまり、とんでもなく独特でシンクロするのに神経を使うけれども、焦点が合わさった瞬間にトリップできる。そういう小説です。
 だからシンクロできないままに終わると、本当に自分がなんでこの話を読んだのかがさっぱり分らなくなります。なんせ書いてあることの意味が分らない。わたしだけかもしらんが。筋の通ったストーリーなんてないんだから、それはまさにリアルな夢のよう。そして夢というのはたいてい、悪夢でも良い夢でもなく、ただ不条理なだけだったりするのだな。云ってしまえばシュール。
 この本も最初の二編で目が白黒になってこりゃあかんと思ったものだけど、最後の一篇「シビレル夢ノ水」がするっと頭の中に入ってきて助かりました。猫の話だからシンクロしやすかったのかもしれないけれど、拡がるイメージがすごい一作です。あらすじだけを述べると「アパートの部屋に迷い込んできた猫を飼っていた主人公だったが、ある日、飼い主が現れて猫を連れていってしまう。猫がいなくなった主人公はすべての気力を失い、部屋の掃除をすることもなくなる。そこに繁殖しはじめたのが、猫が残していった無数の蚤だった…」というところ。ただしその蚤はそれはもうなんというか表現しがたい、まさに夢にのみ存在することを許されるような蚤なのだ。気になるかたはご一読をおすすめします。

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