「まぼろしの市街戦」(監督:フィリップ・ド・ブロカ/1966)



 これ、昔の映画秘宝でオールタイムベストワンに選ばれていたのを読んでから、観てみたかった一作です。昔の映画だし、フランス映画だし、退屈しないかなと思っていたのでしたが、杞憂でした。
 時は1918年、フランス北部の小さな町からドイツ軍が敗走する際に、時限爆弾をしかけていった。それを解除するために送り込まれたイギリス軍の兵隊と、住民が逃げ出したあとの町に取り残された精神病院の患者たちとの不思議な交流を、御伽噺めいたトーンで描いた作品です。
 反戦映画といえば反戦映画なのかもしれないけれど、声高にそんなテーマが語られるわけではありません。ピントがずれつつも幸せな空気のなかで生きている精神病者たち(現代では、このイメージがステロタイプといわれるかもしれない…)が、空っぽになった町で、思い思いの衣装を身にまとい役割を演じる世界のなか、ただひとり正気の主人公が、ときに戸惑い、苛立ちつつも、少しずつその世界に融和していく様は、ユーモアに満ちて、優しい。戦争という正気の暴力が、何回もその世界に介入しそうになるたびに、苦しくなりました。最後の最後で主人公がたどりついた結論が、苦くもしあわせで、まさにまぼろしの世界のようでした。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする